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オリジナル小説書いていきます。

現代異界録 vol.1 一章 変調する世界③ver0.6

現代異界録 vol.1 一章


変調する世界③ver0.6


「それにしても最近何かと物騒だよなー。」

バスのつり革を両手でぶら下がるように掴んでいる亜紀が話題を切り出した。

「そうだな、ニュースでも異常事態とか言ってたし。」

1日の講義を終え、亜紀と雄介はいつものように2人で帰路についていた。

「都内でも犯罪発生率が去年の3倍だってな。あーホント、なみたんのライヴ中止になったらああ…」

一体いつまでなみたんネタを引っ張るつもりなんだと雄介は思ったが、確かにそうなりかねない状況なのはわかる。

昨年の暮れ辺りからだろうか、わかりやすい事象では、犯罪発生率が世界規模で上がり続け留まる気配すらないこと、新種生物の生物も今年になってから15000種以上(来年の約2倍)も見つかっていることが挙げられる。

「なんだか、世界が違う世界にどんどん変わってくみたいだよなー。」

この亜紀の突飛にも聞こえる一言が大袈裟ではなく思える。

今のところ雄介が事件に巻き込まれたり、直接の危害を受けたことはないが、それでも20:00以降の外出が原則禁止やコンビニやスーパーも19:00に閉店するよう役所から指導される地区も出てきているようだった。

「俺こないだ夜中コンビニで立ち読みしてたら巡回の警察に早く帰れって帰らされたかんね。」

少し前までニュースで報道される出来事は自分には関わりの薄いものばかりに感じていたが、徐々に自分の生活に影響が出始めてくると身近なものとして認識が変わってくるし、危機感を覚え始める。

「なんだか、こないだも宇宙人の侵略説とか秘密結社の陰謀説とか色々やってたなー。」とフッと笑いながら亜紀が言う。

「まあ直接関係ないような事が、いきなり同時期に原因不明に変わり始めればな。」

この世界で「何か」が起こっているが、その「何か」はわからない。何とも居心地の悪いような漠然とした違和感が社会を取り巻いている。

バスのインターホンが鳴り機械仕掛けの停車のアナウンスが流れる。

「おっと、もう次か。」

亜紀はポケットから薄い緑色の定期入れを出す。

「ま、世の中がどうなるかわからんし、お互い思い残すことない様に生きるとしようぜ!」

カラッと笑顔で亜紀は雄介の肩を叩くとバスの降り口に向かっていく。

「ああ、んじゃまたな。」

雄介が軽く手を振ると亜紀もまた「じゃな〜」と手をヒラヒラとさせながらバスを降りて行った。

雄介はちょうど目の前の空いた席に座ると鞄からイヤホンとウォークマンを取り出し音楽を聴き始める。亜紀の降りた停車場から5個目の停車場で降りるこの15分間弱はいつもこうして過ごしている。

夕方、黄昏時の景色をボーッと音楽と共にただ見る。今の平凡な日常を象徴しているかのような雄介にとっては大切な時間だった。

(今日、飯なに作ろうかな…。)

と雄介が考え始めた頃、停車場に着いた。運転手に定期券を見せて降車すると、見慣れた後ろ姿が目に入る。

スーツケースを引いた黒い長い髪の女性だった、それ程高くないヒールを履きいかにも出張帰りの会社員といった感じだ。

早足で追いかけ声をかける。

「姉さん」

呼ばれた女性が振り返る、少し疲れた顔していたが雄介を見るや、ホッとした様な笑顔になる。雄介の実の姉である坂井律子だった。

「あら、雄介。久しぶり〜早いじゃない。」

「姉さんこそ、やっと仕事終わったの?」

横に並んで2人は歩き始めた。

「いやいや一時帰宅よ、一時帰宅。明日からまた泊まり込みでまた仕事よ。今日は着替えを取りに帰ってきただけ」

はあっと深いため息を吐きうなだれる。

「次はいつ帰る予定なんだ?」

律子の見慣れてしまった光景ではあるが、今の会社に就職するして4年1年の半分を会社で泊まり込みや出張で家を空け帰ってくるたびに精魂尽き果てたような様子だった。

「ん〜今抱えてる案件がすごく厄介でなのよねー。とりあえず着替えは1週間分は持っていくつもり。」

28歳の女性がそんな生活でいいのだろうか、姉はいわゆるブラック企業に洗脳されてしまっているのではないかと弟として雄介は心配しているのだが、当の本人は現状の自分に満足していると言うのだ。なんでも詳しくは教えられないが社会の重責を担う仕事らしい。

しばらく2人は肩を並べ、たわいの無い世間話をしながら歩いた。自宅のマンションに着き何組みか住人とすれ違い軽く会釈をすると「あら〜坂井さんお久しぶりー!」と律子は声をかけられた。その都度愛想よく応対した。

姉と

現代異界録 vol.1 一章 変調する世界②ver0.6

現代異界録 vol.1


一章 変調する世界②


「痛いじゃんかー!ゆかりん」

後頭部を擦りながら亜紀が抗議する。

「誰がゆかりんだ。」

ゆかりんと呼ばれたこげ茶色のボブカットヘアーをした女子がすかさずツッコんだ。

「あんた少しは周りの目を気にしなさいよね。」

周りの生徒が亜紀と雄介を見てクスクスと笑っている。ぐぅの音も出ず亜紀は小さくなる、雄介はコイツと一緒にされているのなら心外だと思った。

「でも広瀬君!なみたんのソロライヴのチケット当たったのはすごいよね!私外れちゃった・・・。」

結華の隣に座る渉美が無邪気にはしゃぐように言った。少し「天然」な所はあるが、この裏表がないように見える性格と小柄なスタイルは学部の一部の男子から熱狂的な人気があるとかないとか。

「そうなんだよ!!あゆみん!!やっとこの偉業を理解し・・・はい、すいません・・・。」

再び声を大にして話し始めた亜紀を結華がジロリと睨むと、亜紀がまた小さくなった。蛇に睨まれた蛙とはこの事だなあと雄介は思った。

「まあでも、確かに美島奈美って最近テレビでもよく見かけるよね。アイドルでしょ?」と結華。

「そうなの!今とっても人気あってアイドルだけじゃなくてファッションモデルとかタレント番組でも引っ張りだこなんだよー!」

そう生き生きと話す渉美に亜紀がまたも身を乗り出し何かを言おうとしたが、今度は声を発する前に結華に睨まれ、すごすごと小さくなる。

「筧さん、詳しいんだね。」と雄介が言うと渉美は顔を赤らめ少し恥ずかしそうに

「うん、私も大ファンだから」

と筆記用具に貼ってある美島奈美の写真と名前が書かれたステッカーや缶バッジを見せてくる。

なるほど、確かにこれは人気があるのも頷けるなと雄介は写真を見て思った。屈託のない笑顔に大きい目が特徴的でどこか古風な気品を感じる不思議な雰囲気があった。

「でもこの頃、変な噂があるんだよね。」

「噂?」

意味深なことを言い出したので雄介は思わず聞き返してしまう。

「うん、なみたんの出演するライヴとかテレビ番組で原因不明のトラブルが続いてるんだって・・・。」

「なにそれ、こわ。」

といわゆる心霊系が一切いただけない結華が顔をしかめる。

「変な人影がライヴステージに映し出されたり、なみたんと共演するはずだった司会の人とか俳優が次々と体調不良で降板したり、事故にあったり。」

なんだそりゃとタチの悪い噂話か芸能界のある種の話題作りではないかと雄介は思ったが、真剣な表情で話す渉美の手前そんなことは言えない。

「だから、渋谷のソロライヴが中止されるんじゃないかって話もあるみたいで」

「へえ、そうなんだ。」

いまいちどんな反応をしたらいいのかわからない雄介が生返事のような反応をしていると、ガッと亜紀に肩を組まれる。

「雄介・・・お前がどうしてもって言うならこの幻のライヴチケットの1枚お前に譲ってもいいぜ・・・。」

神妙な口調だが、要は「一緒に行くやついないから行かないか?」ということだ。

「いや、行かないね。てか、だいたいなんで今の話しの流れで俺を誘うんだ、誘うなら筧さんだろ。」

「おまえだってそりゃだってじゃーん」と亜紀はいきなりクネクネと気持ち悪い動作であたふたする。

「え、私が行ってもいいんですか?」と驚いたように渉美が言う。

「逆にいいんですか?!」とすかさず亜紀が返す。

「「やったー!!」」と2人して大声で喜んでいる中、周りの目を気にする結華と雄介ははあっとため息をついた。

そろそろ講義が始まる時間だと雄介が準備始めると

「雄介は27日なんか予定あるの?」と不意に結華に聞かれた。

「ああ、まあ野暮用がね。」その言葉にピクッと雄介の右斜め前に座る女子が反応したのを結華は見て

「ふーん。」

と何かを察したような、つまらなそうな様子だったが雄介は別段、気にも止めなかった。

始業のチャイムが鳴りそれを見計らったように教授が教室に入ってくる。退屈だと評判な講義なので、雄介はやはり課題をやってしまおうと思ったが、ライヴと渉美の件で興奮状態の亜紀にことごとくそれは阻まれた。

雄介は本当にはた迷惑なやつだと亜紀に対し思うことも多いが不思議と憎めず、悪い気はしない、気づくと入学してからずっと行動を共にしている。変なやつだと思う。

終業のチャイムが鳴り、どっと講義中の教室内の緊張がほぐれた。

「雄介、先に飯食おうぜー。」と亜紀が背中を伸ばしながら言う。

「おう。」

と雄介が横にいる亜紀に返事をすると、前方からただならぬ気配を感じた。見るとそこには先程まで雄介の右斜め前に座っていた女子(社茜 やしろ あかね)がいた。

「お、おはよう社…。」

雰囲気に気圧され、雄介はおそるおそる声をかけた。すると「野暮で悪かったわね。」とボソッと、しかしはっきりとした声でそれだけを言い捨てスタスタと教室を出て行った。

何が起きたのか、分からないという様子で雄介がポカンとしていると亜紀が雄介の肩に手を乗せて言う。

「雄介…人は皆、自覚のない罪人なのさ…。」

髪をかきあげ、決めている様子が白々しく、馬鹿馬鹿しさを演出していた。

「亜紀、この状況でそのボケはツッコミづらいわ…」

力が抜けるように答え、今日は一段と疲れる日だなと雄介は思った。

現代異界録 vol.1 一章 変調する世界① ver0.7

現代異界録 vol.1


一章 変調する世界①


朝早い一限の講義にも関わらず教室には30〜40人程の生徒が集まっていた。

講義が開始する時刻まで15分少々、雄介(坂井雄介)は売店で購入した菓子パンと野菜ジュースを口にしながら時間が過ぎるのを待っていた。

一年を通して受ける生徒が変わらない学部の必修科目なだけあって交友関係がそれほど広くない雄介にも見知った顔が多い。教室は通常の講義よりもガヤガヤと賑わっていた。

(やかましいな…。)

あまり人混みや繁華街、大人数の人間が集まる場所を得意としない雄介にとっては少し苦痛だった。

(やっぱり就職するべきだったかな。)

姉の律子とさんざん話し合って決めた大学進学という進路だったが、今だにそんな事を雄介は考えてしまう。

「はあ…」

ため息をついて明日までの課題をこの講義中で にやってしまうか悩んでいると目の前に2枚の紙切れが現れる。

「ん?」

と顔を上げると何やら怪しげな笑みを浮かべた亜紀(広瀬亜紀)がいた。

「おはよぅ、ゆうすけく~ん。」

「お、おう…」

表情をヒクつかせている雄介を余所に隣席に割り込むように座り、ピラピラと2枚の紙をまた見せびらかせてくる。

「これなんだと思う〜?」

何かのチケットだと言うことはわかるがピラピラさせているからこそ、それが何のチケットであるかはわからない。実に不愉快な問い方だった。

「じゃーん、答えは11/27美島奈美の初ソロライヴチケットin渋谷でした〜。」

今度は近すぎて書かれている文字が逆に見えない程の距離でチケットをピッと張り見せてくる。

ここでイラついては亜紀と友人関係はやってられないことを雄介はこの半年と少しの間で学んでいた。

「おーそうか、よかったな。」

興味の欠片もなかったので棒読みのような返答をし、見向きもせず講義の準備を始めた。

「んー?反応が薄いね、雄介君。さてはナミたんのこと知らない?知らない?んじゃ仕方ない教えてあげよう。」

「いや、いい。」

ありがた迷惑かつ、めんどくさいのできっぱりと言う。

「おいおい、雄介君。今のトレンドを知りたくないのかい?時代に取り残されてもいいのかい?それでいいのかい?」

よっぽど美島奈美のことを語りたいのか、ズイっと亜紀は顔を寄せしつこく食い下がってくる。しつこい上に周りの目も気にせず、声量が大きくなる一方の亜紀を雄介が黙らせようとした時、別の方面からツッコミが入った。

「あで」

と亜紀が後頭部を押さえる、何者かに教材で後から頭を叩かれたようだ。

「朝っぱらからうるさいわね。」

全く同感だと雄介は思った。振り向くと後ろの席に見知った女子が二人座っていた。

霧条結華(きりじょうゆか)と筧渉美(かけいあゆみ)だった。