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現代異界録 vol.1 一章 変調する世界① ver0.7

現代異界録 vol.1


一章 変調する世界①


朝早い一限の講義にも関わらず教室には30〜40人程の生徒が集まっていた。

講義が開始する時刻まで15分少々、雄介(坂井雄介)は売店で購入した菓子パンと野菜ジュースを口にしながら時間が過ぎるのを待っていた。

一年を通して受ける生徒が変わらない学部の必修科目なだけあって交友関係がそれほど広くない雄介にも見知った顔が多い。教室は通常の講義よりもガヤガヤと賑わっていた。

(やかましいな…。)

あまり人混みや繁華街、大人数の人間が集まる場所を得意としない雄介にとっては少し苦痛だった。

(やっぱり就職するべきだったかな。)

姉の律子とさんざん話し合って決めた大学進学という進路だったが、今だにそんな事を雄介は考えてしまう。

「はあ…」

ため息をついて明日までの課題をこの講義中で にやってしまうか悩んでいると目の前に2枚の紙切れが現れる。

「ん?」

と顔を上げると何やら怪しげな笑みを浮かべた亜紀(広瀬亜紀)がいた。

「おはよぅ、ゆうすけく~ん。」

「お、おう…」

表情をヒクつかせている雄介を余所に隣席に割り込むように座り、ピラピラと2枚の紙をまた見せびらかせてくる。

「これなんだと思う〜?」

何かのチケットだと言うことはわかるがピラピラさせているからこそ、それが何のチケットであるかはわからない。実に不愉快な問い方だった。

「じゃーん、答えは11/27美島奈美の初ソロライヴチケットin渋谷でした〜。」

今度は近すぎて書かれている文字が逆に見えない程の距離でチケットをピッと張り見せてくる。

ここでイラついては亜紀と友人関係はやってられないことを雄介はこの半年と少しの間で学んでいた。

「おーそうか、よかったな。」

興味の欠片もなかったので棒読みのような返答をし、見向きもせず講義の準備を始めた。

「んー?反応が薄いね、雄介君。さてはナミたんのこと知らない?知らない?んじゃ仕方ない教えてあげよう。」

「いや、いい。」

ありがた迷惑かつ、めんどくさいのできっぱりと言う。

「おいおい、雄介君。今のトレンドを知りたくないのかい?時代に取り残されてもいいのかい?それでいいのかい?」

よっぽど美島奈美のことを語りたいのか、ズイっと亜紀は顔を寄せしつこく食い下がってくる。しつこい上に周りの目も気にせず、声量が大きくなる一方の亜紀を雄介が黙らせようとした時、別の方面からツッコミが入った。

「あで」

と亜紀が後頭部を押さえる、何者かに教材で後から頭を叩かれたようだ。

「朝っぱらからうるさいわね。」

全く同感だと雄介は思った。振り向くと後ろの席に見知った女子が二人座っていた。

霧条結華(きりじょうゆか)と筧渉美(かけいあゆみ)だった。