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現代異界録 vol.1 一章 変調する世界②ver0.6

現代異界録 vol.1


一章 変調する世界②


「痛いじゃんかー!ゆかりん」

後頭部を擦りながら亜紀が抗議する。

「誰がゆかりんだ。」

ゆかりんと呼ばれたこげ茶色のボブカットヘアーをした女子がすかさずツッコんだ。

「あんた少しは周りの目を気にしなさいよね。」

周りの生徒が亜紀と雄介を見てクスクスと笑っている。ぐぅの音も出ず亜紀は小さくなる、雄介はコイツと一緒にされているのなら心外だと思った。

「でも広瀬君!なみたんのソロライヴのチケット当たったのはすごいよね!私外れちゃった・・・。」

結華の隣に座る渉美が無邪気にはしゃぐように言った。少し「天然」な所はあるが、この裏表がないように見える性格と小柄なスタイルは学部の一部の男子から熱狂的な人気があるとかないとか。

「そうなんだよ!!あゆみん!!やっとこの偉業を理解し・・・はい、すいません・・・。」

再び声を大にして話し始めた亜紀を結華がジロリと睨むと、亜紀がまた小さくなった。蛇に睨まれた蛙とはこの事だなあと雄介は思った。

「まあでも、確かに美島奈美って最近テレビでもよく見かけるよね。アイドルでしょ?」と結華。

「そうなの!今とっても人気あってアイドルだけじゃなくてファッションモデルとかタレント番組でも引っ張りだこなんだよー!」

そう生き生きと話す渉美に亜紀がまたも身を乗り出し何かを言おうとしたが、今度は声を発する前に結華に睨まれ、すごすごと小さくなる。

「筧さん、詳しいんだね。」と雄介が言うと渉美は顔を赤らめ少し恥ずかしそうに

「うん、私も大ファンだから」

と筆記用具に貼ってある美島奈美の写真と名前が書かれたステッカーや缶バッジを見せてくる。

なるほど、確かにこれは人気があるのも頷けるなと雄介は写真を見て思った。屈託のない笑顔に大きい目が特徴的でどこか古風な気品を感じる不思議な雰囲気があった。

「でもこの頃、変な噂があるんだよね。」

「噂?」

意味深なことを言い出したので雄介は思わず聞き返してしまう。

「うん、なみたんの出演するライヴとかテレビ番組で原因不明のトラブルが続いてるんだって・・・。」

「なにそれ、こわ。」

といわゆる心霊系が一切いただけない結華が顔をしかめる。

「変な人影がライヴステージに映し出されたり、なみたんと共演するはずだった司会の人とか俳優が次々と体調不良で降板したり、事故にあったり。」

なんだそりゃとタチの悪い噂話か芸能界のある種の話題作りではないかと雄介は思ったが、真剣な表情で話す渉美の手前そんなことは言えない。

「だから、渋谷のソロライヴが中止されるんじゃないかって話もあるみたいで」

「へえ、そうなんだ。」

いまいちどんな反応をしたらいいのかわからない雄介が生返事のような反応をしていると、ガッと亜紀に肩を組まれる。

「雄介・・・お前がどうしてもって言うならこの幻のライヴチケットの1枚お前に譲ってもいいぜ・・・。」

神妙な口調だが、要は「一緒に行くやついないから行かないか?」ということだ。

「いや、行かないね。てか、だいたいなんで今の話しの流れで俺を誘うんだ、誘うなら筧さんだろ。」

「おまえだってそりゃだってじゃーん」と亜紀はいきなりクネクネと気持ち悪い動作であたふたする。

「え、私が行ってもいいんですか?」と驚いたように渉美が言う。

「逆にいいんですか?!」とすかさず亜紀が返す。

「「やったー!!」」と2人して大声で喜んでいる中、周りの目を気にする結華と雄介ははあっとため息をついた。

そろそろ講義が始まる時間だと雄介が準備始めると

「雄介は27日なんか予定あるの?」と不意に結華に聞かれた。

「ああ、まあ野暮用がね。」その言葉にピクッと雄介の右斜め前に座る女子が反応したのを結華は見て

「ふーん。」

と何かを察したような、つまらなそうな様子だったが雄介は別段、気にも止めなかった。

始業のチャイムが鳴りそれを見計らったように教授が教室に入ってくる。退屈だと評判な講義なので、雄介はやはり課題をやってしまおうと思ったが、ライヴと渉美の件で興奮状態の亜紀にことごとくそれは阻まれた。

雄介は本当にはた迷惑なやつだと亜紀に対し思うことも多いが不思議と憎めず、悪い気はしない、気づくと入学してからずっと行動を共にしている。変なやつだと思う。

終業のチャイムが鳴り、どっと講義中の教室内の緊張がほぐれた。

「雄介、先に飯食おうぜー。」と亜紀が背中を伸ばしながら言う。

「おう。」

と雄介が横にいる亜紀に返事をすると、前方からただならぬ気配を感じた。見るとそこには先程まで雄介の右斜め前に座っていた女子(社茜 やしろ あかね)がいた。

「お、おはよう社…。」

雰囲気に気圧され、雄介はおそるおそる声をかけた。すると「野暮で悪かったわね。」とボソッと、しかしはっきりとした声でそれだけを言い捨てスタスタと教室を出て行った。

何が起きたのか、分からないという様子で雄介がポカンとしていると亜紀が雄介の肩に手を乗せて言う。

「雄介…人は皆、自覚のない罪人なのさ…。」

髪をかきあげ、決めている様子が白々しく、馬鹿馬鹿しさを演出していた。

「亜紀、この状況でそのボケはツッコミづらいわ…」

力が抜けるように答え、今日は一段と疲れる日だなと雄介は思った。